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エレクトロニクス業界の中小企業が行うM&Aの注意点



「半導体業界のM&A」などと検索すると世界的半導体メーカーの買収劇が事例として紹介されていたりします。

でも、中小企業オーナー様にとってはこれはあまり参考になりません。

M&Aの進め方は、どのようなスキームで、どのような譲受候補先を想定して、どのような段取りで進めるかなどを決めていかないといけませんが、当然、エレクトロニクス分野の中小企業様が世界的なメーカーのようなM&Aの段取りを組むわけではないからです。

当社は、「エレクトロニクス業界」の現場を知りつつ、「中小企業のM&A」を専門としておりますので、その立場で書かせていただきたいと思います。

エレクトロニクス関連の事業を営んでいるがどのように会社や事業を売却したらよいのか、現在M&Aを進めているがどのようなことに注意しないといけないのか、など参考になる情報もあるかと思いますので、ご参考いただけますと幸いです。

業種別に細分化してM&Aを考える

エレクトロニクス関連の中小企業様でもその事業内容は様々です。

電子部品を製造されていたり、商社として電子部品の販売をおこなっていたり、EMSとして電子機器の製造をしていたりと色々です。ここの区別無しにM&Aを進めてしまうと大きく方向性がズレていくことも多いです。

業種別に少しその違いを取り上げ、中小M&A市場での見方を記載します。

電子部品製造会社

中小企業で電子部品の製造を行っているという場合、かなりニッチな製品を製造されているケースも多いです。

半導体そのものを作るというということになると、製造設備の規模からもかなり壮大な話になり、中小企業の枠を超える規模感になってきます。

なので、中小企業で電子部品を製造している会社様というのは、顧客製品の中でもニッチな箇所で使用される類の機構系部品や、いわゆる発明に近いような部品製造をしているケースが見受けられます。

ここには特許をお持ちの会社も一定数見られますが、中にはその技術をどう生かしたらよいか分からないのでM&Aで生かしてもらえるような会社を探しているというケースもあります。

発明家の視点に立てばこの特許は価値があるに違いない、と思っているからこそ特許を取るに至るわけですが、「実績は無いけど価値があるに違いない」という前提で高額な譲渡金額で売却したい、というのは実務的に困難なケースも多いので、その市場価値については注意深く確認しつつ、客観的なデータとともに譲受企業様にお伝えする必要があります。

電子部品製造会社様については、その製造技術の優劣だけでなく、既存の市場規模や今後の見通しもかなり注意深く見られます。

例えば、クロック部品として歴史のある水晶に代替するようなMEMS発信機が出てきたりと、テクノロジーの進化で部品カテゴリそのものの需要が影響を受けることもあれば、特定のアプリケーションでしか使われない電子部品を製造していたものの、そのアプリケーションの需要が枯れてきてしまうみたいなこともあります。

このあたりについては、買収する側の立場で考えることができないと難しい部分があります。

近年、M&Aの譲受先を探すためにM&Aマッチングプラットフォームを利用される方も多いですが、ニッチな製品だけにあまり匿名情報に具体的なことが記載できず、的外れなオファーが増えるという特徴もあります。


電子部品商社

電子部品の販売を行っている会社がM&Aでの売却を検討することもあります。

同業が買収すれば商流拡大、納入先の企業が買収すれば仕入コスト削減・業容拡大、同業界で他商材の販売をしている会社が買収すればクロスセルによる売上の拡大、など様々なシナジーがあります。

大手の半導体商社同士の大型M&A(例えば、マクニカと富士エレ、加賀電子と富士通エレ、菱洋エレとリョーサン、など)も盛んに行われていますが、日本の半導体商社はロングテールと言われるように小規模な会社も多いため、近年、小規模な電子部品販売会社でも中小M&Aの括りとして盛んになってきています。

半導体商社M&Aの特徴として、M&A規模が小さい方が、メーカー側の事情を考慮する度合が少なくて済むという面もあります(半導体メーカー側にも代理店戦略があり、代理店同士の合意だけでなくメーカー側にも配慮が必要で、場合によってメーカー主導のものもあります)。

ただ、その場合でも納品先である得意先の理解は得られる必要があり、ここを雑に行ってしまうとM&A後の取引に影響が出ることもあります。

電子部品は基本的にリードタイムが長い商材であり、一時の半導体不足の際には10年先の発注をするといった他の業種では考えられないような手配もありました。

手配にも注意が必要だからこそ、仕入先・得意先にも目を向けたM&Aをしないといけないということです。

また、このリードタイムの長い商品性は、多額の所要運転資金を確保することにも繋がるので、借入金が多い会社も存在します。株式譲渡においてはM&A後個人の連帯保証を解除すること、事業譲渡や組織再編も伴うスキームにおいては債権者保護への配慮・手続きも必要です。

電子部品商社の会社が、いざM&Aをしようと当事者の間でM&Aに関する譲渡条件を決めたとしても、実運用として、フォーキャスト等を基にした受発注対応や、回転在庫の基準、在庫保管の環境、不具合発生時の対応、PCN/EOL品への対応など、きちんと体制を説明できない場合は得意先である顧客側から問題視される(許可されない)可能性も有るので、ディスクローズ(情報開示)前にどれだけ詰められるか成功のカギになります。

詰めが浅い場合の最悪なケースとして、「M&Aが実現せず、譲渡企業の商流が剥奪されただけで終わる(さらに引取責任の無い在庫がそのまま滞留在庫になる)」「譲受企業が取引継続のために引き継いだ得意先の言いなりになるしかなくなってしまう」ということがあります。

M&A業者は基本的に成約後は関与しない会社がほとんどなので、きちんとリスクの洗い出しができる業者に任せるのがよいでしょう。

基板アセンブリ会社

基板アッセンブリ会社のM&Aは、設備を持つ製造業として捉えられます。

どのような設備か、どのような顧客を持っているのか、アッセンブリ以外の強みがあるかなど深堀していく必要があります。

譲渡企業様がM&Aをしようと思う際に、「会社を継いでくれる後継者がいない」「業績が思わしくない」など様々な理由がありますが、業績について問題意識があるのであれば、その中身まで精査する必要があります。

例えば、エンド顧客が成長しており製造キャパを増強させることで仕事が増やせる譲受企業様と、よい案件が取れておらず設備や従業員がフル稼働していないものの借入金が重く支払がつらいという譲渡企業様がマッチングする、といった事例はM&A後の補完関係を築く関係性として良い例ですが、状況を客観的に把握することで最適な譲受先というのも浮上したりするものです。

このあたりはM&A業者がきちんと事業を理解し、保有している設備に関する知識も持ち合わせるべきです。例えば、チップマウンターの種類でも例えばヤマハ発動機製のマウンターとパナソニック製のマウンターをメインで使っているアセンブリ会社とM&Aしたい、など細かい要望はあったりしますので、業界に詳しいM&A業者の方がニーズに合う相手先を紹介できる可能性は上がります。

エレクトロニクス系の開発会社

クライアントの基板について開発を請負い行っているというODM企業などがこれに該当します。開発だけでなく前述のアセンブリまでやっていますという会社などもあります。

開発といっても分野が様々なので、アナログ系が強いのかデジタル系が強いのか、白物家電系のアプリケーション開発が多いのか産業機械系のアプリケーションが多いのか、もっと言えば、FPGA設計でも、Intel/AlteraなのかXilinxなのかなど、少し掘り下げてM&Aの相手先を探索する必要があります。

このあたりは掘り下げないと、詳しく聞いてみたらちょっとシナジーが弱い、などの理由でトップ面談以降の破談が多くなります(本来、企業概要書作成段階で掘り下げておくところです)。

ただ、普通のM&Aコンサルタントは「FPGAが何か」など知らない方が大多数だと思いますので、その点を深堀して、譲受候補先に事前にきちんと説明できているケースは実際あまり多くないと思います。

また、デマンドクリエイションも行う電子部品商社にとって、エレクトロニクス開発会社にいる技術者というのは、エンド顧客のアプリケーションへ自社取扱い製品を送り込む重要なルートであったりもします。

この商流の関係性を抑えてM&A後のシナジー効果を検証することも大変有意義ですし、時として買収目的にもなり得ます。

M&Aを行う際には、エンド顧客とODM先の関係性、エンド顧客内での開発と購買の力関係・立ち位置などがイメージできないと適切なM&Aフローが引けないことも多いので注意が必要です。



他にも、検査・解析の会社や、そのツールを開発製造している会社、半導体製造装置を製造している会社など、エレクトロニクス業界においては様々な業種が存在します。

どんなM&Aが可能なのか

エレクトロニクス業界の中小企業が行うM&Aについては、他業界の中小企業が行うM&Aとスキーム自体は同様ですが、業界特有の問題も踏まえ解説いたします。

株式譲渡

株式譲渡は、譲渡企業の株主が保有する株式を売却するというスキームです。

中小企業のM&Aでは頻繁に行われているスキームで、譲渡側の経営者が残留するケースなどを除くと、創業者もしくは創業者親族が保有する100%全ての株式を第三者に売却するというケースが多いです。

親族承継や従業員承継として、親族や従業員に株式譲渡を行うケースもありますが、エレクトロニクス業界の場合は一定規模以上の金融機関借入を起こしている会社も多く、債務保証の引継ぎ等の観点から第三者への譲渡を検討したいという企業オーナー様も多い印象です。

また、長年良い業績を保ち、無借金経営を実現されている譲渡企業様においては、純資産も膨らみ、譲渡金額が高くなりがちな面もあるため、一定規模以上になると資金力の面から親族承継や従業員承継が難しくなってしまう、という側面もあります。

株式譲渡を行う際には、こうした財務内容を把握した上で、適切な条件設定・候補先選定でM&A検討を進める必要があります。


ちなみに、エレクトロニクス関連企業においては、得意先への配慮から株式譲渡を検討することもあります。

株式譲渡によるM&Aは、譲渡対象となる企業の株式を売買するだけですので、譲渡企業の社名や取引先様との取引契約、従業員様との雇用契約もそのまま譲渡先に引き継げます。

そのため、得意先の購買担当者の方としては、譲受企業との新たな口座を開設する必要なく従前の取引が可能ですし、仕入先の引継ぎ時におけるトラブル(例えば、特価の移管が認められなかったり、バックログの付け替えが上手くいかず納期がブッシュアウトされるなど)へも気を揉む必要がない譲渡とすることも可能です。

得意先の開発担当者の方としても、「開発途中なのに製品や試作品のサポートをしてくれる会社が急に変わります」と言われれば困惑するケースがありますので、極力得意先を刺激しない、という点で現状維持のまま引き継げる株式譲渡が望ましいと言えます。

一方、株式譲渡においては、取引先との契約の存続が可能か、潜在債務の有無など気にしないといけない点も多くありますので、譲受候補先様への打診までにリスクを洗い出しする必要があります。

事業譲渡

事業譲渡は、譲渡企業の持つ事業のうち、一部の事業のみを他社に譲渡するというスキームです。

過去には、半導体の販売代理店をしている新光商事が、テキサスインスツルメンツに関する事業のみをKTL社に売却するという事例もありましたが、これは事業譲渡というM&Aスキームで行われています。

上記の例ではTIに関する商流変更とも言えますが、元々新光商事で働いていた方がKTL社の名刺で得意先企業に訪問したりと、従業員の移籍が伴うのも事業譲渡の特徴で、対外的に見てもM&Aをしたと分かりやすいといえます。

仕入先の関係上、株式譲渡をして全部の商流を他社に移すことが難しいケースで事業譲渡を選ぶこともありますし、譲受企業が譲渡企業の簿外債務を懸念した結果、リスク切り離しのために事業譲渡となるケースもある、など理由は様々です。

いづれにしても、事業譲渡の場合は、取引先との契約まき直し、従業員様との雇用契約のまき直し、発注残・受注残の付け替え、在庫の移転、などが発生するため、M&Aを行うことで事業に影響が出ないか慎重に見極める必要があります。

事業譲渡での取引にあたっては、譲渡する資産・契約などを特定する必要があります。負債を引継ぎ対象から外すことも実務ではよくありますが、その事業譲渡が債権者に影響を与えないかは注意して調整する必要があります。

また、事業の全部を譲渡するのか、事業の重要な一部を譲渡するのか、それ以外なのか。譲渡する資産の帳簿金額が譲渡会社の総資産の額の5分の1を超えるのか。譲受企業側も、譲渡を受ける財産の帳簿金額が譲受会社の純資産の5分の1を超えるのか、などによって、会社法上の手続きも異なってきますので、専門家を入れて進めるのが良いかと思います。

その他

その他にもM&Aでは第三者割当増資や株式交換、株式移転など様々なスキームがあります。

ただし、中小企業のM&Aにおいては、後継者不在を解消する目的であったり、譲渡企業のオーナーが完全に譲渡企業から離れ、対価として現金をもらう、ということを売主側が希望されるケースも比較的多いため、経営権や資本関係が残るスキームは最初から選択肢にないというケースも多いです。

また、上記で記載した株式譲渡を行うにあたり、事前に組織再編をしてから株式譲渡するなどの方法を取ることもあります。

これは例えば、「事業譲渡で発生する税金(法人税等)ではなく、金融所得課税(20%程度)で抑えたい」「法人ではなく個人で譲渡代金を受け取りたい」という理由で株式譲渡をM&Aスキームとして希望しつつも、対象となる法人に事業と関係のない資産(収益不動産など)があるというような場合に、M&Aで譲受企業に売却する前に、会社分割をして、事業と関係のない資産・負債を切り分けておくというような方法です。

スキームによって譲渡する資産・負債が異なったり、発生する税金が異なったり、要するスケジュールが異なりますし、譲受企業の取り組みのしやすさも異なりますので、財務内容や譲受企業から要求される事項などを想定してスキームを組み立てる必要があります。

まずは何から始めるのが正解?

M&Aを検討されるきっかけは色々あるかと思います。

「後継者がおらず、自分に何かあったときに心配」
「親から会社を継いだがやる気がない」
「会社や従業員のためには大きい会社にお任せしたい」
「体調が悪化し、一刻も早く仕事の負荷を減らしたい」

など、様々です。

時間的に余裕がある方は、M&Aについてまずは知識を深めるのがよいかと思いますが、時間に余裕がない場合は、M&A仲介会社などに話を聞き会話形式で理解を深めるのもよいかと思います。

注意点としては、長年厚意にしてもらっている得意先の購買担当者にいきなり相談される方もたまにいらっしゃいますが、M&Aを視野に入れているのであればこれはやめておきましょう

購買担当者の立場としては、譲渡先も固まっていないなか相談されても取引先の存続性に疑念を持つきっかけになりるだけですし、BCPの観点から他の調達先などを探し始めるきっかけにもなり得ます。

株式譲渡を行う場合、最初のご相談からクロージングまで半年~1年程度かかることもありますので、この間、取引先の商流が無くなってしまうことで前提条件が大きく崩れ、せっかく現れた譲受企業との交渉が破談になるリスクも上がります。

「いままでお世話になったから義理立てしておきたい」

というのは大事ですが、情報開示を行うのはタイミングが重要ですので、この点は業界知見のあるM&Aコンサルタントと相談した上で組み立てるのが良いです。


当社では、エレクトロニクス領域で実務経験があり、同業界での中小企業M&Aを支援しております実績がございますので、まずは一度ご相談の上、進め方を検討されることをお勧めしております。

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