昨今、全盛期の頃と比べると日本の半導体メーカーが弱くなっているという話も聞かれますが、日本には世界に誇れる電子部品メーカーがたくさんあります。
今回はそのようなメーカーの一部を取り上げ、どのくらいの規模のメーカーがあるのか、どのような製品を作っているのか、また、そういった企業がどういったM&Aを行っているか調べてみました。
当サイトは、中小企業のM&Aを主題にしているので、今回は少し大きい話になってはしますが、電子・電機分野の企業においては全く無縁の話ではないケースもあるので、中小企業に関係する部分についても補足しておきます。
国内の主要電子部品メーカーまとめ
国内の主要な電子部品メーカーを以下にまとめます。
半導体関連をメインで挙げておりますが、広く電子部品メーカーという括りにしております。他にも優れた技術を持ち、世界シェアの高い電子部品メーカーなども数多くありますので、数あるうちの一部という理解でご覧ください。
■国内主要電子部品メーカー
メーカー名 | 売上高 | 従業員数 | 取扱製品(例) |
---|---|---|---|
ルネサスエレクトロニクス | 1兆4,697億円 2023/12期 | 21,204名 2023/12末 | MCU、アナログ、クロック、インタフェース、パワー、メモリ、ロジック、RF、センサ |
ソニーセミコンダクタソリューションズ | 1兆4,022億円 2022年度 | 約9,000名 | イメージセンサー、LSI、レーザーダイオード |
キオクシア | 1兆2821億円 2023/3期 | 約15,300名 2023年3月末 | フラッシュメモリ、SSD |
東芝デバイス&ストレージ | 7,971億円 2022年度 | 20,600名 2023年3月末 | SiC、パワー(モジュール、デバイス)、モータードライバー、ディスクリート、無線通信用IC |
ローム | 5,079億円 2023年3月 | 23,754名 2023年3月末 | Amp、電源IC、メモリ、クロック、インタフェース、FET |
日亜化学 | 5,021億円 2022年12月期 | 9,219名 2022年12月 | LED、LD |
三菱電機 | 5兆36億円 2022年度 | 149,655名 | パワー(モジュール、デバイス)、光デバイス、RFデバイス、センサー |
サンケン電気 | 2,254億円 2023年3月 | 8,707名 2023年3月末 | パワー(モジュール、デバイス)、センサー |
富士電機 | 1兆94億円 2023年3月 | 27,123名 | IGBTモジュール、パワーデバイス、電源IC、圧力センサ |
ソシオネクスト | 1,696億円 2023/3Q迄 | 約2,500名 | カスタムSoC、ASSP |
日清紡マイクロデバイス | 812億円 2022年12月期 | 1,921名 2022年12月末 | ディスクリート、電源、マイクロ波製品 |
メガチップス | 707億円 2023年3月期 | 327名 2023年3月末 | LSI、クロック |
大真空 | 384億円 | 3,350名 2023年3月末 | 水晶振動子、発信器 |
ザインエレクトロニクス | 50億円 2023年12月期 | 128名 2022年12月末 | インタフェース、電源、LEDドライバ |
Rapidus | 2nmノード以下の最先端ロジック半導体を製造する施設を建設 | ||
TDK | 2兆1,808億円2023年3月 | 102,908名2023年3月末 | 受動部品、センサ、磁気応用製品 |
村田製作所 | 1兆6,868億円 | 73,164名 2023年3月末 | 積層セラミックコンデンサ、電源、アイソレータ、圧電センサ、インダクタ他 |
最近では、日本の名だたる企業が出資している「Rapidus」社が注目を集めているところもありますが、三菱電機・日立製作所・NECをルーツに持つ「ルネサスエレクトロニクス」社や、東芝をルーツにもつ「キオクシア」社など、半導体全盛期の頃の日本の技術が、様々な会社に受け継がれ、それぞれが発展しているという状況です。
また、電子部品を開発・製造・販売するだけでなく、それを自社製品に組み込み独自の競争力を有する会社もあり、確かな技術を背景に成長しています。
産業別には日本の自動車産業の競争力は他の国と比べても高く、そして、自動車の電子化も進んでいる背景もあり、近年では車載用途の電子部品を、高い信頼性と高い供給能力で提供することで、自動車産業の伸びと一緒に電子部品産業も伸びていくことを目指すというのが一つのトレンドになっています。
電子部品メーカーのM&A
半導体・電子部品メーカーのM&Aはこれまでも積極的に行われています。
日本国内で行われるのは、東芝が行っているような組織再編や、あるいは、他社の工場を譲り受けるような事例が見られますが、クロスボーダーのM&Aも多く、規模が大きい印象です。
例えば以下のようなケースです。
・Altium社(米・プリント基板ソフトウェア開発)
・Transphorm社(米・GaNパワー半導体)
・Sequans社(仏・セルラーIoT向け4G/5Gチップ)
・Panthronics社(豪・ワイヤレス製品)
・Celeno社(イスラエル・アナログ)
・Dialog semiconductor社(英・アナログ)
・IDT社(米・通信IC)
・Intersil社(米・アナログ)
・Altair semiconductor社(イスラエル・LTE向けモデムチップ)
・Softkinetic Systems社(ベルギー・距離画像センサー)
・Kionix社(米・加速度センサ)
・Crocus technology社(米・TMRセンサー)
・SiTime社(米・クロック)
・Modiotek社(台・音声処理IC)
・Resonant社(米・高周波フィルター)
・Peregrine semiconductor社(米・高周波部品)
・東京電波社(日・クロック)
・RF monolithics社(米・通信モジュール)
自社の主力製品と補完関係にあるような製品群を持つ会社とのM&Aや、新しい技術を獲得するためのM&Aなどが行われています。
ルネサスエレクトロニクスは従来から優れたアナログ製品やMCUを始め多彩なラインアップを保有している中、アナログ製品群の一層の強化をしつつ、通信用や車載用途でのラインアップを充実しています。そのようなM&Aを行うことで、豊富な製品群と、国内外での販売力を武器に更に成長を遂げています。
ソニーセミコンダクタソリューションズについては、イメージング&センシングテクノロジーに強みがあり、イメージセンサー世界売上シェア№1でもある企業です。自社の圧倒的な強みを更に強化するようなM&Aも行っています。
ロームやメガチップスがM&Aを行った、加速度センサ製品やクロック製品を持っている会社は優れたMEMS技術を保有しており、新市場の開拓や自社ASICとの融合などが行われています。
電子部品メーカーは、いかに顧客の基板を自社製品で埋めるか・特定分野で圧倒的な地位を確立するかという観点でもシナジー効果が図られる部分が見られます。
海外に目を向けてみても、車載系パワー半導体で高いシェアを誇るInfineon Technologiesは、マイコンやワイヤレスソリューションを獲得するためにCypress semiconductorを買収し、現在では新たな顧客も獲得しています。
海外メーカー同士の巨額M&A事例としても挙げられる、IntelのAltera買収、Analog DevicesのLinear Technology買収、Avago TechnologiesのBroadcom買収など、いづれも兆単位以上の巨額買収となり世界を席巻しています。これは半導体を使う側の立場とすると、もうCPU/FPGAのコア部品はIntelで、アナログ系部品はAnalog Devicesへ、と集約していくような影響力がある話です。これに対抗する国内メーカーとしても、このような群雄割拠な状況下で存在感を失わないようにしのぎを削っているというのが現状です。
また、ハード面以外とのM&Aも行われている動きもあるのはとても興味深いです。
例えば、ルネサスエレクトロニクスでは、世界で最も使用されているPCBソフトウェアツールを擁するAltium社をM&Aするなど、半導体メーカー以外の会社もM&A対象とし、優れた半導体部品の供給だけではなく電子機器設計者の使いやすさの向上など、よりルネサス製品を使いやすい環境を整えるなど戦略的な動きも見られます。
中小企業のM&A
近年日本国内で増加傾向にある中小企業のM&Aですが、上記のような大手電子部品メーカーのIn-Out型も含む大型のM&Aとは無関係にも思いますが、必ずしもそういうわけではありません。
例えば、電子部品の販売代理店であれば、取り扱うメーカーがM&Aを行うことで、取り扱う商材が変わったり、メーカー側の意向で商流が変わることがあります。商流移管については、一般的には、買収した側の代理店に集約されることも多く、代理店間で在庫や従業員等の譲渡目的でM&Aが行われるケースがあります。
また、大手電子部品メーカーが中小企業に直接投資することもあります。例えば、ロームでは、テクノロジー関連のスタートアップ企業を対象にしたCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)活動を行うなど、半導体材料・半導体製造技術・組み込みアルゴリズム分野など様々な分野で投資先を模索する動きがあります。中小企業であっても優れた技術を持つ企業については投資の対象になる可能性はあるので、大手の資本力で世界に販売していきたいというスタートアップ企業にはチャンスだと思います。
半導体など精密部品は特に製造設備に膨大な投資が必要なため、中小企業で開発・製造・販売までを行う企業は少ないですが、自社で製造を行わないファブレス企業であったり、ハードではなくソフトを提供する企業などは、比較的資本を抑えつつ優れた製品を提供できる可能性もあります。買収検討企業の中には、投資対象をハードからソフトに舵を切っている企業も存在するため、M&Aの提案に興味をもってもらえるかもしれません。
弊社では、そういった優れた技術をお持ちの会社様をM&Aで支援しておりますので、「どうやってM&Aしたらよいのか分からない」「どうやって資本提携の提案先を考えたらよいか分からない」といったご相談など幅広くお受けしております。また、譲受企業様側から「〇〇技術に強みを持つ企業の買収をしたい」というご相談も承っておりますので、お気軽にお問合せ下さい。
譲渡企業様については、M&A検討を始める前に注意しておかないといけないこともありますので、こちらの記事もご参考ください。
お問合せの際には以下のお問合せフォームよりお願いいたします。