2024年もあとわずかとなりますが、ここで2024年までのM&A業界のまとめをしてみます。
M&A業者、主にM&A仲介会社の動きについても併せて考察することで、今後もM&A業界についても見通しを考えてみます。
2024年中小M&Aの成約件数
2024年までの振り返りと、中小企業におけるM&Aの成約数についてまとめてみます。
業界全体のM&A成約数推移
日本国内におけるM&A件数について、マールオンラインの公表しているデータに注目すると以下のようにいえます。リーマンショック等経済混乱や不況が起こることでM&A件数は減少する傾向がみられます。
・2007年以降減少、2011年に底を打ち増加に一転
・2020年のコロナなどの影響もありつつ高水準で推移(伸び率は鈍化)
・2023年の件数4015件の内、IN-IN(国内企業同士のM&A)は3071件
中小企業のM&Aという点では、これ以上に本データで捕捉できないM&A成約も相当数あるとは見られます。
許認可の売買も含む個社間での譲渡を行っているケースは昔からありますが、2010年代中盤以降M&Aマッチングプラットフォームもぞくぞくと立ち上がり、面識のない者同士でのM&Aも増加しています。
また、不動産M&Aやサイト売買のような取引もM&Aで扱われるようになるなど、M&A取引の範囲も広がっています。
仲介会社のM&A成約数推移
上場仲介会社の内、一定水準以上の成約を行う仲介会社の成約件数の推移をみると、概ね年々増加傾向ではあるものの、会社によりバラつきが見られます。伸び率が鈍化している仲介会社も見られます。
成約件数についていうと、成約件数の先行指標である受託件数に比例して成約件数の増加がみられます。また、受託件数の増加率は所属しているコンサルタント数によっても影響を受けることが公表されているIR資料からも見て取れます。
近年急拡大している仲介会社ではコンサルタント数の増加がみられますが、そういった仲介会社においては成約件数に対する受託済案件の割合が増えている(滞留案件化と思われる状況)といった問題なども数字から読み取れます。
事業承継・引継ぎ支援センターの成約数推移
M&Aにおける公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターについては、R6年5月に公表されているデータによるとH23年以降、相談者・成約件数ともに右肩上がりで増加しています。
H23年の相談者250件・成約件数0件から、R5年の相談数23,722件・成約件数2,023件という増加率です。
事業承継・引継ぎ支援センターの成約件数は、センター内で完結して成約に至るものもあれば、仲介会社を紹介して成約に至るものもあるため、上記仲介会社の成約件数と一部ダブルカウントになります。
傾向として、事業承継・引継ぎ支援センターに相談に来られる方は小規模な事業者が多く、成約した譲渡企業の年商規模は、1億円以下が2/3という水準感です。
会社の規模と仲介手数料の関係上、大手中堅の仲介会社が営業対象としない層の小規模事業者は事業承継・引継ぎ支援センターを頼るケースも多いです。
近年の大手中堅の仲介会社の受託件数・成約件数の伸び率よりも事業承継・引継ぎ支援センターの相談者数・成約件数の伸び率が安定しているのは、主に年商1億円以下の小規模事業者に対し民間の仲介会社の支援が行き届いていない現状を示している可能性もあります。
M&A業者の動向
次に、M&A業者の業者数と仲介手数料の動きについてまとめます。
業者数の推移
M&A業者数は、中小企業庁のM&A支援機関数にて確認できますが、最新の数字としては、R6年10月21日時点で2,758社(者)となっています。2023年には3,000社(者)を超える水準に達したものの、直近では若干減少しています。
※M&A支援機関には仲介会社以外にも会計士・弁護士など士業専門家も含まれるが、M&Aコンサルティングを主業にするM&A専門業者は仲介・FA併せて1,000社(者)程度。
M&A支援機関登録制度は、M&A業者として問題のある業者は登録抹消される制度でもありますが、具体的に大規模な登録抹消は行われている程の報道は無い(M&A詐欺に対する仲介会社への対応も注意喚起止まり)ため、支援機関数の減少は登録更新をしていない業者が一定数いた可能性も考えられます。
M&A支援機関は毎年中小企業庁に実績報告を行いますが、成約実績報告を行っているのは全体の20%程度であり、それ以外は成約実績が無いということになります。そのため、成約件数が無い業者が事業を撤退させている可能性も考えられます。
仲介手数料の設定
M&A業界では、レーマン方式による報酬の上限設定と最低報酬金額の下限設定を用いて報酬を決定する方法が広く採用されています。
近年は大手・中堅仲介会社を中心に最低報酬額の引き上げが見られます(ストライク、インテグループ、経営承継支援他)。上場仲介会社のIR資料では、最低報酬額の水準が高い程利益率が高くなる傾向が顕著であるため、譲渡企業の集客力との兼ね合いで報酬額を再設定する動きがみられます。
また、最低報酬額を業界でも高水準である2,000万円以上で設定している仲介会社においても、会社によっては年々利益率が低下(M&Aキャピタルパートナーズ社では、2015年経常利益率53.5%⇒2024年経常利益率33.3%)しているケースもみられます。現場での仲介会社間の競争が激化している可能性もあります。
さらに、2024年から中小企業庁主導でM&A支援機関の手数料を公に開示する仕組みになったことにより、M&Aの委託前に顧客側が手数料水準を確認できるようになったため、今後はさらに公表される手数料が利益率に影響を与える可能性があります。
今後の業界見通し
ここまでは、中小企業のM&Aの状況とM&A業者の動向を説明してきました。これらを踏まえ、2025年以降どのような動きが想定されるかを考えてみます。
M&Aニーズは引き続き需要が見込まれるものの先行きには不安要因も
M&Aの譲渡・譲受需要については一定数見込まれます。近年、M&Aを行う背景として団塊の世代である経営者の引退をきっかけにした事業承継がテーマになることも多かったですが、直近でも中小企業の経営者の年齢分布を見ても70歳以上の割合が過去と比較して最高水準に達していることから、事業承継系のM&Aは今後もしばらくは続くものと想定されています。
一方で、年商1億円超の事業承継系のM&Aについては経営者の年齢を考慮すると、2030年代にピークアウトされることも想定されています。
過去の傾向から、経済混乱・不況によりM&A件数が減少することがいえるため、今後経済混乱・不況となった場合に成約件数が減少する可能性があります。
業種別にみると、例えばAI関連など近年投資が盛んな分野には資金が集まっているため、全体的な受給バランスに関わらず、特定の分野ではM&Aが盛んに行われるのは今後も継続するのではと思われます。
拡大志向のある仲介会社はコンサルタント獲得競争へ
前述の通り、成約件数増加の為には受託件数を増加させる必要があり、そのためにはコンサルタント獲得が必要となります。これはM&A仲介業というのが労働集約的な事業であるためで、たとえAIによる自動化を積極的に推進している仲介会社でもこの傾向は変わりません。そのため、事業規模を拡大させたい仲介会社は引き続きコンサルタント獲得を推進することになると思われます。
業界未経験者でも所属する会社が提供する仕組みを使い短期間でM&A成約を行うという仲介会社も増えてきていますが、一方で、経験が浅いコンサルタントがM&Aの現場で起こす問題も顕在化し始めています。
2024年では、譲受企業によるM&A詐欺に気付けずに意図せず詐欺をほう助してしまうような事件が社会問題化しましたが、これは経験が浅いコンサルタントが現場に出てしまうことや、強力なインセンティブ設計も原因とされているため、コンサルタントの質の向上も顧客保護の観点からは急務となっています。
M&A仲介協会による対策がメディアでは報道されていますが、業者を選ぶ顧客側としては、担当するコンサルタントが無理やり成約まで進めないか、途中で担当が変わらないか、そうするインセンティブ設計が無いか、コンサルタント個人に経験があることを確認できるか、といったことに注意を向け選ぶのも重要でしょう。
利益率の低下に対する動き
大手仲介会社含め利益率低下の傾向も一部では見られます。
2024年にM&A支援機関の手数料が公表されたことにより、顧客による業者を物色する動きは定着する可能性があります。今後は各社のマーケティング力に応じた手数料設計がされる可能性があり、それにより利益率について明暗が分かれる可能性があります。
M&Aは譲渡側と受託契約を締結し、その後成約を目指すというのが一般的な流れであるため、最初の段階である受託をスムーズに進められるよう譲渡側の手数料は下げ、譲受側の手数料を上げるといった動きもみられるかもしれません。
仲介会社は今後利益率改善をするため、レーマン料率の計算方法を変える等、より複雑な料金設定にする可能性も考えられるため、業者を選ぶ顧客側としてはより一層事前の情報収集が大切となるでしょう。
M&A業者への不信感が大手仲介会社への追い風になるか否か
2024年は、M&A詐欺が大きくクローズアップされたり、M&A仲介会社への問題意識がより一層高まった年になりました。
これにより、しっかりした業者に任せたい、と思う顧客も増えたかもしれません。その意味では、今回の事件は大手仲介会社にとって追い風になる可能性はあります。
しかしその一方で、今回の報道されているM&A詐欺に関与した仲介会社は大手・中堅仲介会社が中心であるため、よく調べてから業者を選ぶという顧客においては大手・中堅仲介会社を選びにくい状況ともいえ、今回の事件は逆風ともいえます。
弊社では、年商1億円以下のお客様でも対応できる手数料設計と数十件以上成約あるコンサルタントのみで対応しており、M&A詐欺を発端とした中小M&Aガイドライン改訂にもいち早く対応しております。
大手仲介会社ともコンペになることもありますが、最終的には弊社経由でM&Aを行うというお客様も増えておりますので、今後も幅広くお客様のM&Aを支援できればと思います。
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