ブログ

「取引先から聞いたM&Aの話を漏らしたら情報漏洩になる?」訴える?訴えられる?対策とその後

近年、中小企業のみならず零細企業や個人事業主でもM&Aが広まっていくにしたがって、「取引先のM&Aの噂」なるものがなされる機会も多くなってきているように思います。

筆者も、こういう話を聞く機会も多い気がしており、

・会社を売りたいという話を聞いてしまったがこれは秘密情報なのか
・M&Aについての噂を広めてしまったことで何か罪に問われることはあるのか
・あわよくばその噂になっているM&Aの話に買手としてエントリーしたいけどできるのか

など、様々な質問を受けることがあります。

他社の情報を流布する、ということ自体にリスクが伴うものではありますが、ここでは、実態としてM&Aの話がどういう形で取引先に出回るのか、その結果誰がどういう責任を負う可能性があるのか、M&Aにはどういう影響を及ぼすのかについてお伝えしていきます。

※具体的な法的見解を示すものではございません。また、個別事案については法律事務所へご相談下さい。


結構多い?取引先のM&A話


よくある取引先間のM&A話の情報漏洩はこのような感じです。

A社、B社と取引のある卸問屋であるC社が、日々の営業活動中、たまたま「A社がM&Aで会社を売却しようとしている」という話をA社から聞いてしまう。

それをB社を訪問している際に世間話的な感じで話してしまい、B社がA社に対して「御社は会社を売ろうとしているのですか?」と事実確認等をした結果、C社がM&Aの話を流布していることが明らかになってしまう。


A社としては、まさか「こんなセンシティブな情報をC社は流布しないだろう」と思って伝え、B社としては、まさか「C社が世間話的に話した内容がセンシティブな話ではないだろう」と思って伝え、C社としては、まさか「B社がA社事実確認などしないだろう」と思ってしまった。

それぞれに想定外の事態が起こったとも言えそうな事案ですが、意外と身の回りに多い話です。

営業関連の方は業務上色々な会話をする可能性があるのと、多くの従業員の方にとってM&Aというのは身近なものではなく秘密情報がどうかの判断が難しい場合もあるので、そもそもM&Aの話は基本的に経営層のみに留めて最終段階まで交渉するのが一般的です。

それでも、その営業職の方が社員株主であったり、社内でキーマンであるがゆえM&Aの買手による買収監査時に同席を求められるというケースも無くはないため、M&A実施前にM&A検討している旨を伝えざるを得ないケースもあるわけです。

その際でも、他の社員へは口外禁止、ましてや社外の人間に伝えるなど言語道断、という線引きをしておかないと上記のような情報漏洩に繋がるのです。

M&A業界における情報漏洩の事例は、一つや二つではなく多数ありますが、実は情報漏洩しているのは売主自身だったということもよくあります。


M&Aの話を流布すると責任を問われる?


それでは、M&Aの話を漏洩することで法的な責任を問われるのでしょうか?

情報漏洩については場合によって法的責任を問われるケースもありますが、判例データベース(裁判所データベース、民間データベース)等を調査したところではあまり企業間のNDAについて争われた判例については見当たりませんでした。

通常M&A情報は、企業間のNDA(秘密保持契約)を締結してからやり取りするような情報ではありますが、このNDAに違反したということで争った判例は多くは無いようですし、ましてや前述の例のような、NDAがあるかないかも微妙な「ここだけの話」では秘密保持義務違反にも問えるかは怪しいところではないかと思います。また、M&Aの話が漏れたことによる損害というのを金額で測定することは難しい面もあり、損害賠償という形での請求も難しい面も多いかもしれません。

一般的に、M&Aの話が漏洩することで起こる問題というのは、従業員が自社のM&A検討の事実を知り不安になり離職してしまう、取引先が他の取引先に仕事の依頼先を切り替えてしまう、などが考えられますが、それによる損害がM&A情報を流布したことにより発生したものかを立証することは容易でないケースも多いでしょう。

ただ、過去の判例においては、企業の重要な情報を漏洩した社員が会社から訴えられるような事案や、企業にとって不都合な情報を流布されたということで不正競争防止法を根拠に争われるような判例はいくつかありました。

先ず、企業と従業員間の話でいえば、M&Aを検討していることを漏洩した、というピンポイントな判例は見当たりませんでしたが、例えば、会社のノウハウや特殊な技術、顧客情報などを社員が持ち出したようなケースでは判例もあり、情報を盗んだ社員が会社から訴えられる事案は多数ありました。

営業秘密を盗んだり悪用することは不正競争防止法違反に該当し、場合によって民事・刑事両方で責任を負うことがあり、また、不正競争防止法以外にも、場合によっては背任罪(刑事)や不法行為にもとづく損害賠償責任(民事)などでも責任を負うことがあるようです。

この手の判例では、そもそも営業秘密であるか(秘密情報として管理されていたか)などが争われることも少なくなく、訴える側としてもそれを立証する必要がある点では原告側の難易度も一定程度あるように見受けられます。

また、企業間の話でいえば、他社のネガティブな情報を流布して自社の利益に繋がるようなことをした場合には、不正競争防止法により争われている判例もありました。

例えば、D社と競合しているE社が、D社のクライアントに対して「D社はM&Aで売却検討しているからヤバいですよ。弊社に契約を切り替えませんか」などと吹聴していたようなケースです。

競合関係が認められ、吹聴している先が当事者ではなく、営業上の信用を毀損させ、虚偽の事実を伝える、などということであれば不正競争防止法の信用棄損行為にも該当する可能性があるかもしれません。

不正競争防止法では損害額の推定という考え方があり、実際に不法行為と因果関係のある損害がどの程度あるか分からない場合においても、それを推定し、損害賠償請求できるというものがあります(有名な判例としては任天堂のマリカー訴訟などがあります)。この規程は原告側に有利なものではありますが、逆にこの損害額の推定があるがゆえに、簡単に不正競争防止法を根拠にした訴えが通ると逆に企業間取引が阻害されるなどの側面から、実際の判例では不正競争防止法自体認められないケースも多々あるように見受けられます。



実際に水面下では争われている可能性はあるかもしれませんが、調べられる判例を見る限りではあまり前例として参考にできそうなものは無いという状況ではあります。

場合によって、複数社に自ら流布していたり、M&A仲介業者を複数入れたりした場合は、「M&Aを検討している」という情報がどこから漏れたかすら分からないということも起こり得ますので、最初の段階から情報管理は徹底することが重要であることは言うまでもありません。


情報漏洩するとM&Aの話はどうなるのか?


では、一旦M&Aを検討している話が流布してしまった場合、M&Aの話は一体どうなるのでしょうか?

これについては様々なケースが考えられると思いますが、概ね以下のような対処になることが多い印象はあります。

ほとぼりが冷めるまで検討を中断

情報をばらされた側の売手としては、事態の収束を図るため、一旦M&Aの検討を中断することがあります。

M&Aの噂で社員や取引先が動揺している、ということであれば、「そもそもM&Aの話なんてしたことが無いのに、勝手に噂された」などとしらを切るという、方法を取るケースもあるでしょう。

ただ、最終的にはM&Aをしようと思っているのであれば、あまりここで嘘をつくことが得策とは言えないこともあるので売手としては注意が必要です。

いずれの場合も、売手に多大な心労がかかる話ではあるので、情報漏洩に関して非のある相手については、係争に発展するかは別として、関係悪化する可能性は高いといえます。

当事者たる買手については、非が無かったとしても疎遠になる可能性もあります。

買手としては、これから買収する会社の社員や取引先が動揺して剥落してしまうのは望ましくなく、買収するリスクが増えることは、買収意欲の低下にも繋がるからです。

フルオープンにして検討を進める

これとは対照的に、「もうバレてしまったから」ということでM&A検討していることをオープンにして進めるという判断もあり得ます。

M&A検討していることを公表することにはリスクが伴うから秘密裏に進めましょうというだけであって、必ずしも公表してはいけないというものではないからです。

実際、社長が高齢で、社員も皆「うちの社長の持病が悪化して働けなくなったらこの会社どうなるんだろう」と思っているような会社については、M&Aも含めて会社の将来を考えている姿勢を社員に伝えることでむしろ安心してもらえる、というケースもあります。

人の内心の部分は量れないとこがありますのでリスクは伴いますが、そういう選択をするのも一案です。

情報漏洩をきっかけにオープンにM&A検討を進める場合、(情報漏洩について買手に非が無い前提では)売手は交渉中の買手と話を早急にまとめようというバイアスがかかる可能性もありますので、噂話が時を空けずして真実になるということもあるかもしれません。


結局のところ、情報漏洩という不測の事態が起こった際に、当事者たる売手がどういう判断をするかにかかっているところもあります。ここは、M&Aではどういう判断が問題を引き起こす可能性があるかを冷静に見極める部分が多分にありますので、経験のあるM&Aコンサルタントに相談するのもよいでしょう。

弊社ではM&A検討していることがオープンになっている状態での成約実績もございますので、ご相談等お力になれることもあるかと思いますので、お気軽に無料相談をご依頼いただければ幸いです(電気・電子・機械分野に限らず全業種対応可能です)。

また、本記事の読者の方の中には、当事者ではないけど取引先がM&Aでの売却を検討している事実を知り、そのディールに加わりたいという買手企業様もいらっしゃるかと思います。そのようなケースでも状況を整理して、上手に進める必要がありますのでご相談いただければと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。

お問合せの際には、以下のお問合せフォームよりお問合せいただけますと幸いです。

お問合せ

    必須お問い合わせ種別

    任意会社名

    必須お名前(匿名可)

    任意電話番号

    必須メールアドレス

    必須お問い合わせ内容

    関連記事

    TOP