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「1億円以上高く不動産・機械類の含み益を評価してほしい?」M&Aで注意すべき含み損益

売手の立場でM&Aを検討するとき自社の資産についてこう思う方もいるのではないでしょうか?

「この土地は買った時よりもかなり値上がりしているはずだから高く評価してくれるはずだ」
「この機械は再調達したら簿価よりも高いはずだから高く評価してくれるはずだ」

実際のところ、M&Aは相手先である買手がどのような評価をするかが大なので、こういう評価をしないといけないということはありません。ただ、あまりに一方的な希望を押し付けると相手側と折り合わず、M&Aが成約に至らないということも普通に起こり得ます。

とはいえ、売手のほとんどの方は初めてM&Aに取り組む方だと思いますので、どの程度が無理が無い程度の交渉なのか分からないのもあると思います。

今日は、このような「含み損益」について、教科書的な内容ではなく現場のリアルなお話ができればと思います。

よく交渉される不動産の含み損益


含み損益の部分で金額的にもインパクトのあるのが不動産です。中小企業でも1億円以上含みが存在するケースがあります。

土地は、建物と違い経年劣化が無い非償却資産です。なので、土地を取得した時の金額で簿価計上されており、時価とのズレがいつも論点になります。

例えば、バブル時代に取得した土地で今の時価からはかなり高い金額で簿価計上されている(含み損がある)ケースもあれば、土地取得後近くに幹線道路ができたり、土地建物をセットで取得するときに減価償却をより効かせるために建物の按分を大きくし土地を低い金額で簿価計上されている(含み益がある)ケースもあります。

売手の立場でいえば、「より高く評価してもらいたい」気持ちから、含み益がある時は含み益を主張する一方、含み損がある場合は特に触れたくない(簿価のまま評価してもらいたい)と思うものです。

逆に買手は買収金額は低い方がよいので、含み益は触れずに、含み損を指摘したくなるものです。


M&Aにおいては、資産の時価をみつつ交渉することが一般的ですので、どちらか一方のみの意見だけで決まるということはあまりないですが、売手は複数の買手と交渉しているのか、買手は他の売手とのM&Aと比べてどれだけ優先度が高いのかといった需給バランスだったり、のれんの評価など資産とは別に金額に影響を及ぼす要素などが複合的に絡み合い交渉が進んでいきます。極端な話、売手にとっては最終的な金額が高ければ土地の時価をどう評価されても構わないという面もあるので結局は最終金額がどうかというケースが多いです。

土地の評価について売手が交渉することはNGか、というと、含み益があるのあれば売手が買手に対して時価での評価を希望することはおかしいことではなくよくあります。含み損についても調べればすぐに分かる部分もあるので、予め最初に売手が買手に伝えることもあります。

ただ、ここで問題なのは何をもって時価とするかは売手と買手で主張が食い違うことがあるので注意が必要という点です。

近隣の物件の売出価格をそのまま持ってきてそれを時価としたい売手もいれば、会社の方針で土地の評価は路線価でと仰られる買手もいます。当然これでは金額に乖離が出るので、では固定資産税評価額÷0.7にしましょうか、とか、売手と買手でどちらにも忖度しない不動産鑑定士に共同で依頼してそれを時価としましょうか、という感じで落としどころを探る形になります。

売手や買手がいくらの評価をしようがそれは当人の自由ではあるわけですが、売手が「M&Aで成約させよう!」と強く想うのであれば以下のことを覚えておきましょう。

・売買未成立である近隣の売出価格を希望金額として買手に要求するのはハードルが高い
・希望する金額根拠が示せないと建設的な協議にならない

・売手側で不動産鑑定を取って提示しても、恣意的な要素がないか疑問を持たれることがある
・あまり高い不動産時価を要求すると、「うちは不動産会社ではないので」とあしらう買手もいる


主張するなら根拠を示すことはいうまでもなく重要で、あまり買手に高すぎる要求を出したことで本来有力候補となるはずの買手が検討見送りになってしまったりということを避けることが、多くの買手候補先と交渉する方法になるかと思います。

仲介する者が、100社交渉して99社高すぎて無理と言われても1社相場感のない買手を丸め込めればOKという発想だったら別ですが、健全な仲介者であれば売手にとっても買手にとってもフェアな交渉を形成して各社のベストな提案に答えを出していくという方が健全な仲介者であり、売手にとってはこちらの方が買手が全滅するリスクを避けられる可能性が高い仲介者といえます。

仲介者と会話する際にはこの辺りの会話を仲介契約を結ぶ前の株価算定などのタイミングでしておくのがよいと思われます。

償却資産では過度な交渉は避けられがち


不動産でも建物であったり、営業用車両、機械設備類の償却資産は、基本的に時価は償却後の簿価とされるケースが多いです。償却不足でもなければそのまま帳簿上の金額となるので純資産額を見る上でも比較的見やすいです。

それでもこのようなことを仰られる売手の方もいらっしゃいます。

「この車両はあまり乗っておらず走行距離も少なく状態も良いから簿価以上で評価してほしい」
「この機械は今ではなかなか手に入らず希少価値があり、精密な加工が可能だから高く評価してほしい」

ここについては気持ちは分かりますし、実際少しを色を付けてくれる買手もいたりもするのですが、あまり期待し過ぎない方が良い部分かもしれません。減価償却という会計処理によって計算された資産価値よりも高い要求をするわけですから相手方がどの程度理解してくれるのかによります。

場合によって、事業にあまり使用していない車両などであれば売ってキャッシュに換えることも一つの答えかもしれません。

このような協議の中で、売手から主張されがちなのが「再調達価格」です。

今再調達したら〇〇円くらいになるからそれを基準にしたいという方もいますがここは注意が必要です。

確かに買手にとっては再調達コストを考慮してM&Aを検討することはあります。例えば、新規で用地取得して新工場を建設するコストと、M&Aにより工場をもつ会社を取得するコストを天秤にかけて検討するなどです。

ただ、M&Aの場合は必要でないものも多少なりとも譲り受けすることもありますし、譲受自体にもコストはかかります。そもそも本当に必要なものでもなければ再調達コストの話にもならない面もあります。

極端な事例ですが、過去、自社開発のシステムをお持ちの会社がM&Aで売却しようとするも、その自社開発のシステムに資産性がないという案件がありました。その自社開発のシステムには億単位で投資したそうで、売手の社長も優れたシステムであることを自負されていたのですが、世の中にはそれよりも優れたシステムが既に低料金で出回っており自社開発のシステムの活躍の場がない、という状態でした。

帳簿上は無形資産で資産計上もされていましたが、実際に買手からは厳しい評価ばかりでした。売手の社長は最後の最後まで「一から開発したら億単位でお金がかかる」と言い張り希望条件を下げることはしなかったですが、最終的にはそれに見合う条件を提示できる買手は現れませんでした。

当然ですが買手からして「必要ではない資産」に再調達コストで高い金額を要求されることは違和感があります。全資産の内、ごく一部の話であればまだしも、会社で唯一の主要資産に資産性が無いとなると、M&Aする必要性まで疑問符が付くことも自然なことだと思います。

売手がなんでもかんでも「再調達価格」を持ち出すと、買手からは単純に「高いなぁ」となってしまうことになってしまうので注意しましょう。


また、在庫についても触れておきます。

在庫については簿価評価で見る買手が多いように思いますが、「売れる在庫」か「売れない在庫」かは重要な論点であり、「売れない在庫」は含み損として評価されるのが一般的です。

何をもって「売れる」か「売れないか」は議論の余地がありますが、月商からみて回転在庫が多すぎれば滞留在庫もあるのではと思われることもありますし、入庫から長期間経っていれば滞留と見做される可能性もあります。卸売業であれば受注発注でやっている分には滞留は発生しないか、長期在庫があっても引取責任があるはずですが、取引関係上回転在庫を自社リスクで持っているケースなどは、直近の流動状況などを見て滞留在庫とされる可能性はあります。

売手の立場で言えば、引取責任や内示状況などを示したり、納入先の顧客側の需要について詳細を説明することで滞留でない証明をしていくことも重要になります。

ちなみに、100円で仕入れたものを120円で売る商品在庫(簿価100円)を「売れたら120円になるのだから120円で在庫も評価してくれ」と交渉するのは無茶なのでやめましょう。売れて初めて120円の評価になるものなので。

業界知見のある買手・仲介者によって話の展開が変わる


売手企業の資産評価については、買手それぞれの見方をします。

ですので、その該当資産価値に相場感を持っている買手であれば違った見方をする可能性があるということです。

例えば、不動産業も営んでいる飲食事業者に、不動産付きの店舗の譲受を検討してもらう場合、将来的に土地を別の用途で利用する方法も金額に織り込みM&A検討をしてもらえるといったような事例がありました。

また、債務超過で譲受先が見つからない金属加工会社を、工作機械卸をしている会社が買手となり譲受した時には、その金属加工会社で持っている工作機械に希少価値があることを見抜き、借入金が重い会社ではあったものの簿価以上の資産価値を見出しM&A成就に繋がった、という事例もありました。

買手が売手企業の業種にどれだけ精通しているかは、資産の評価についても影響を及ぼす可能性があるということです。精通していなければ、帳簿上の数字が大きな検討材料になるかもしれませんが、精通していればそれに加え、独自の見方も入るため、時として売手と買手の認識のギャップが埋まることもあるように思います。

売手としては、まずはどのような資産構成なのかを分析し、希望条件はどのくらいが無理がないのか、どういう買手候補先と交渉したらよいのか等検討していくのがよいですが、ここは自力で難しいところだと思います。実際同様のケースで経験のあるM&A専門家に依頼するのがベストですが、M&A仲介会社は星の数ほどあるので業者選びに迷ってしまうところかと思います。

弊社では、電子・電気・機械分野以外にも広い業種で成約実績がございますので、どのようにM&Aを進めるべきかからご相談いただけますので選択肢の一つに入れていただければ幸いです。お気軽に無料相談にお問合せ下さい。

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