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「仲介会社の規模は候補先の数に比例するか」を検証

これをから会社や事業の売却を考える会社オーナーが仲介会社選びをするとき、

「大手仲介会社の方が手数料は高いけど、買手をたくさん見つけてくれるのではないか」

と考える人も多いです。


この考えは、正しい面もありますが、そうとも言えない面もあります。


まず、大手の仲介会社の方が手数料が高い、という点については、成功報酬の最低手数料の設定・採用しているレーマン料率の計算方法等に関して言えば概ねその傾向はあるのですが、それでは買手をたくさん見つけてくるか、というと必ずしもそうとは限りません。


それは、どのように買手を見つけるか、という点について理解することで整理しやすくなりますので、ここでは仲介会社内で一般的に行われている買手探しの方法について解説したいと思います。


M&A仲介会社内での買手探しの仕方


売主が仲介会社と会話をしていると、

「これが、今回打診してみたいと思っている候補先リストです」

という感じで候補先リストを開示されることが多いでしょう。

※中には「この会社が意欲が高いので是非優先的に交渉しましょう」と一社ゴリ押しで紹介される事例もありますが、仲介会社はよい条件を買手から引き出すという行為は利益相反の関係上できないので、特段の事情が無い限りは複数の候補先を売主に紹介して、その中から良い条件を選んでもらうという進め方とするのが一般的です。


「そうか、このような会社がうちの会社に関心を示すのか」と納得してしまいがちな場面ですが、どうやってこの候補先をリスト化しているのでしょうか。

仲介会社によってやり方は異なりますが、大体抽出の仕方は概ね以下のような方法を取っています。

①社内で蓄積している買収ニーズから抽出
②過去売手企業と同じような会社・事業を買収したことのある買手企業群から抽出
③社外のマッチングプラットフォームに登録してオファーをもらう
④連携している同業仲介に買手を紹介してもらう
⑤コンサルタントが企業分析し、シナジー効果のありそうな企業を独自に抽出


売手からみて、買手候補をたくさん紹介してもらえる、というのは、概ねこのような過程でより多くの買手候補が抽出できるということですので、今回記事の本題である「大手の仲介会社はたくさんの買手候補を抽出することが可能か」という点についてそれぞれの抽出方法を基に考えてみたいと思います。

①社内で蓄積している買収ニーズから抽出

まず、仲介会社が社内に蓄積している買手ニーズから候補先を見繕うケースについて考えてみます。

仲介会社の規模が大きければ当然社内にたくさんの買手ニーズを保有しているだろう、と思うところですが、もう少し詳細まで考えてみます。

仲介会社が大きければ、コンサルタントの数も多く、取り扱い案件数が多く、その各案件毎に探索した買手ニーズの数が増えていくものなので、規模感は保有している買手ニーズの量に比例する部分は確かにあります。ただし、この点については偏りや鮮度の問題もあるので注意が必要です。

医療系の案件を中心に取扱っていれば、認知している買手ニーズは当然医療系の案件を買収検討している買手候補ばかりになりますし、IT系を中心に取り扱っていれば買手候補もIT系ばかりになります。

大手だけど業種を縛らずに受託しているか仲介会社か、大手ではないけど業種を絞って受託している仲介会社か、で迷った場合、前者よりも後者の方が提案社数が多い、ということもあり得ます。

また、M&Aの買手が上場会社だった場合、適示開示の関係でM&Aをした旨が公になることもある(開示しないケースもある)ので、そうなるとその事実は他のM&A仲介会社も知るところになります。その場合は、特定の仲介会社だけが保有している買手ニーズでもなくなることがあります。

さらに、こうした買収ニーズというのは賞味期限があり、以前は買収したいと思っていたが、他の会社を買収してしまったからとか本業の業績が悪化したかといった理由で、今は買収する気が無いということもよくあります。

そう考えると、適示開示の義務もない企業の買手ニーズを社内だけに保有しており、かつ、賞味期限切れでなく、かつ、これから売却しようとしている会社や事業と同じ業種の案件を数多く受託したことがある仲介会社かどうか、という話になってくるので、それなりに限定されるかもしれません。この情報量については他者と差別化できる程の情報を持っているのかについてを見る必要があります。

②過去売手企業と同じような会社・事業を買収したことのある買手企業群から抽出

M&A仲介会社が買手候補先を抽出する際、よく参考にするのが、過去同業種で買収したことのある企業から探索する方法です。この買収というのはその仲介会社が関与していない案件についても含みます。

本来、個人や法人に内存している買収を検討しようという思惑を何の手掛かりも無く探し当てることは難しいものですが、過去買収したことがあるという事実を把握していれば、少なくとも何を考えているか分からない会社よりも、買収提案をした時に話を聞いてもらえる確率は上がります。

そのため、その案件と同じような業種の会社や事業を過去買収したことのある買手候補先をできるだけ多く抽出することで、買手として有力な候補先化しやすいものです。

ただし、こういった過去どの会社がどの会社を買収したかという情報は、非公開情報を除き、外販されている情報を含めればどの仲介会社でも同レベルのデータを持つことは可能なので、仲介会社の規模が大きくても小さくてもそれほど情報格差が無い(つまり、提案できる候補先の数に大きな差分が無い)ということが言えるのかもしれません。

③社外のマッチングプラットフォームに登録してオファーをもらう

M&Aにはマッチングプラットフォームというものがあり、基本的には売主側が登録すると、その売手企業・事業に興味がある買手企業がオファーをするという仕組みになっています。この売手企業・事業の登録は、仲介会社が代理で掲載することができるケースもありますし、買手側も仲介会社が代理でオファーできるケースもあります。

M&A仲介会社が候補先リストを作成する際に、こうしたマッチングプラットフォームに仲介会社が掲載して実際にオファーをもらった買手候補をリストアップする仲介会社もあります。

こうした買手のオファーによる候補先抽出は、今タイムリーなニーズなので賞味期限切れの買収ニーズである可能性は低いというメリットがあります。

ただ、M&Aマッチングプラットフォームは前述の通り、売主が直接掲載することもできますので、ある意味自分で買手を探すことができるのに、わざわざ仲介会社経由で掲載して仲介手数料を払うことになる、という構図になってしまいます。買手を探すということに対して仲介会社の付加価値を置いているのであれば売主にとっては合理的ではない可能性も考えた方がよいです。

④連携している同業仲介に買手を紹介してもらう

M&A仲介会社では買手探しの際、連携している同業の仲介会社や金融機関、士業事務所などに依頼して、代わりに適した買手がいないかを探索してもらうことがあります。

単純に紹介だけしてもらい、成約したら成功報酬の一部を紹介料として支払うというケースもありますし、売手側と買手側で分かれて成約までそれぞれのクライアントを支援しそれぞれから成功報酬をもらう、というケースもあります。

M&A仲介というのは、基本的に売手からも買手からも手数料を徴収する両手取りですので、本来は自社で買手を見つけて両手取りしたいと業者側の発想としてはできればこの方法を使わずに、他の方法で買手が見つけられなかった時に検討するということが実務的には多いかもしれません。

大手仲介会社の方が連携している同業は多い可能性はありますが、利益率を下げてまで同業連携するかは方針が分かれるところですし、これも③と同様に、売主がその連携しているという先に直接依頼すれば、もっと安い仲介手数料で希望に沿う買手の紹介を受けられる可能性もあるわけですので、買手が見つからない場合売主自ら他の仲介会社に打診するというのも合理的な判断と言えるでしょう。

⑤コンサルタントが企業分析し、シナジー効果のありそうな企業を独自に抽出

本来、コンサルタントという仕事に期待するのはこうした分析や高度なアウトプットかと思います。

この方法による候補先選定は、仲介会社というよりも担当するコンサルタントによってもかなりアウトプットが左右されるところがあります。

大手仲介会社であれば優秀な人材が多いから良いアウトプットになるだろうと考える方もいるかもしれませんが、これは何とも言えません。経験値の浅いコンサルタントが担当になる可能性もあるためです。

どれだけ多くの買手と会話し、彼らが必要とする投資判断に必要な情報に触れたか、といったような経験も、地に足のついたシナジー効果を想定する上では必要なので、結局は経験値の高いコンサルタントに出会えるか、という点が大きなポイントになります。

仲介会社の規模とは関係なく、個々のコンサルタントの経験値・能力が高いかどうかを見極めることが、有力化する候補先選出の数に影響を与えるとも言えそうです。

大手ほど多くの買手を紹介できるは本当か


前述の方法を踏まえた上で、大手仲介会社の方が多くの買手を紹介できるかについてまとめると概ね以下のようになります。

①大手の方が有利な点もある。但し、業種特化で買手を探す仲介会社の方が有利なケースや、提供された情報が古くないかは注意が必要。
②優位性はそれほどない
③優位性は全くない
④大手であっても同業者との連携を推奨しないケースもあるので優位性になるかはケースバイケース
⑤仲介会社というより担当するコンサルタントの能力次第


更に言うと、担当コンサルタントの能力は①~④のアレンジ力にも影響してくる可能性があるので、M&A仲介を依頼するにあたっては会社の規模というよりも、どのようなコンサルタントに担当してもらえるかという点が最も重要とも言えます。

買手候補先を抽出する方法を並べて考えると、必ずしも大手の方が有利とも言えない部分もあるとは言えます。

売主としての戦略として、例えば、③は自分で対応し、コンサルタントの質が良く手数料の安い仲介会社から候補先を出してもらい、それでも決まらない場合には、大手の持つ①④を期待して依頼する、というのも、最終的に支払う仲介手数料を抑える方法としても合理的かもしれません。

仲介会社は利益相反行為をできない以上、大手仲介会社経由であれば買手は高い条件提示をする、ということはあり得ない(むしろ買手手数料の高さによって提示条件は悪くなることがある)という仕組みは覚えておきましょう。

ちなみに大手仲介会社ではより網羅的に候補先が出せるようにAIを使った選出の仕方などもあります。現時点では「事業内容」「エリア」「買収金額」などをベースにしたキーワードマッチングに近い仕組みであることも多く、M&A専門家が本来行う企業分析というよりも、候補先の選出漏れを防ぐポカヨケ的な仕組みの色合いも強いものとなっているように思いますが、そうした仕組みはあるに越したことはないというものとは思いますのでそういった付加価値はあるのかもしれません。

こういった部分も踏まえ、大手仲介会社の手数料が妥当なのか一度考えた上で依頼するのが合理的なのかもしれません。こちらの記事で各社の手数料比較をしておりますのでご参考いただければ幸いです。


当社では、電気・電子・機械分野において多く案件の取り扱いがございますので、売手企業様がこの分野であればよりマッチした候補先のご紹介ができる可能性がございます。仲介会社への依頼を検討している方は、一度ご検討いただければ幸いです。

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